医療過誤の解決事例
最近の解決事例の中から、依頼者のご承諾を得て紹介しております。
心拍数モニタリング、羊水混濁に対する注意欠如による出産事故
【事案】
数年前の秋、妊娠38週目の妊婦Aさんは、14時頃から軽い陣痛が始まりました。14時と16時に定期検診で通っていた静岡県立総合病院に電話をしましたが、様子をみるようにとの指示でした。
夜になると陣痛が強くなったため、20時頃、定期検診で通っていた静岡県立総合病院に入院しました。Aさんの妊娠経過は順調で、妊婦検診には欠かさず行き、母体、胎児とも異常を指摘されたことはありませんでした。
診察した助産師から既往歴を聴取され、内診を受けました。この時点で子宮口は指2本分開いていたとのことでした。
その翌日、14時頃、陣痛はあるものの、子宮口が開かず(子宮口約5cm開)なかなか分娩が進まなかったため、静岡県立総合病院医師より人工破膜が施行されました。同日16時20分には胎児の心拍が確認されなくなってしまいました。同日16時40分には、心拍に変動があり、同日18時頃には心拍が回復しましたが、羊水混濁が認められました。そして、同日19時頃、羊水混濁は持続したまま、同日20時15分頃、子宮口が8cm開き、詳しい説明も妊婦Aさんにないまま、アトニン混注の点滴が開始されました。
そして、同日22時50分頃、Aさんは分娩室へ移動し、同日23時にようやく、頭位自然分娩にて、胎児仮死の状態でBちゃんは娩出されました。
妊娠38週3日、分娩所要時間33時間でした。
分娩後のBちゃんの経過は、頭部CTで脳全体に黒い影がみられ、低酸素脳症により脳に相当程度のダメージを受けた様子が顕著でした。また、脳波についても正常波形がほとんど見られず、筋緊張、痙攣が継続し、体温調節もできないなど、低酸素脳症による後遺障害一級相当の重度の後遺障害が残りました。
そして、Bちゃんは2歳2ヶ月の時、亡くなりました。
【問題点】
1. 胎児心拍モニター上、早期(出産4~6時間以上前から)より変動一過性徐脈、基線の変動の現象などが度々あらわれ、しかも羊水混濁が確認されていて、なおかつ出産2時間前からは胎児仮死を示唆する頻脈も現れているにもかかわらず、吸引・鉗子分娩、帝王切開などの急速遂娩を一切行わなかった。
2. 急速遂娩が行われなかったために、新生児Bちゃんに低酸素脳症による後遺障害一級相当の重度の後遺障害を残存させた。胎児心拍数モニタリング上明白な異常があるにもかかわらず何らの処置も執らなかった静岡県立総合病院医師の過失は大きい。
3. 心拍数モニタリングは判別しにくい事案もあるが、本件は、回数も複数で、変動も明確であったため、決して判読困難な事例ではなく、羊水混濁も確認されている。静岡県立総合病院医師は、分娩時における基本的な注意義務を欠いていたと考えられる。
【解決】
Aさんの主治医は、Bちゃんの1ヶ月検診の時、「分娩中一時的に心音が変動したが、その後安定していたのでいけると思った」という発言をしました。
Bちゃんのご両親は相談に来られ、解決までに3年弱を要したものの、静岡県がご両親に対して、示談段階にて5,000万円を支払うことで和解が成立しました。