医療過誤の解決事例

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医療過誤の解決事例

最近の解決事例の中から、依頼者のご承諾を得て紹介しております。

女性Aさん私立産科病院

胎児心拍数モニタリング異常所見・急速遂娩の遅れ

事案

Aさんは、30代前半で初めてのお子さんを授かり、県外のB私立産科病院に定期的に通院していました。
40週5日、B私立産科病院で内診を受けましたが、その日の午後から体がだるくなり、体温が一時39℃まで上昇しましたが、午後7時には平熱に戻りました。
翌日午前0時、破水し、直後には陣痛が10分間隔となったため、タクシーで病院に向かいました。

午前1時30分ころには病院に到着しました。医療記録によれば、入院時の体温は37.4℃、羊水混濁も確認されていました。

問題点

胎児心拍数モニタリングが午前2時45分から開始されましたが、午前3時前後には基線再変動低下、早発一過性徐脈が観察され始めました。その後、高度遷延一過性徐脈,変動一過性徐脈、基線細変動低下などの異常所見が頻繁に観察されました。これは、現在のガイドライン(異常の程度を1~5に分類)に照らし、少なくとも波形レベル2~4という異常所見でありましたが、途中、2回にわたってモニタリングは中断され、その合計は2時間以上に上りました。
後の専門医の意見によれば午前3時30分前に2回目の波形レベル4となった時点では帝王切開を行うべきであったとされています。

結局、午前7時50分前に出生しましたが、お子さんは新生児仮死の状態でした。このとき、羊水混濁を認める場合の処置が適切になされておらず、さらに、新生児仮死の場合、緊急コールで総合病院の新生児科医師の派遣を仰ぎ、処置を行いながら救急搬送する、というのが一般的です。このときもこの手順が踏まれたのですが、肝心の派遣要請及び来院が迅速になされず、挿管などの蘇生処置も大幅に遅れました。

非常に残念なことにお子さんには四肢麻痺など重度の後遺障害が残存しています。
ご両親は、当初からB産科病院の対応に疑問を抱き、弁護士・医師などの専門家に相談されてきました。そして、10年の時効を意識せざるを得なくなった時期に至り、当事務所を訪れられました。当事務所では、記録を徹底的に精査し、協力医と緊密に協議しながら、新生児当時のCT、エコー所見などから、新生児仮死に関する絨毛膜羊膜炎などの他原因が否定されるとの結論に達し、B産科病院との交渉に臨みました。
また、金銭的請求だけでなく、ご両親の強いご希望で、和解条項の中に、再発防止に関する条項も加えるよう、要求いたしました。

和解条項

その結果、金銭賠償額としては1億円を若干上回る金額、再発防止条項としては次の内容を盛り込んだ和解が成立いたしました。

「本件医療事故に鑑み、患者にとって最善の医療が実現するよう、現在既に実施している事柄を含め下記の事項について留意し、鋭意精励する。

                                   記
(1)患者が入院するに際し、医師による診察が早期に行われる医療体制の構築
(2)入院中、分娩監視装置等を適切に活用し、また、そのモニター結果については随時医師が確認し適切な医療行為を実施すること
(3)産科医として必要な新生児への蘇生処置並びに新生児への気管挿管等救命救急技術の習得
(4)その必要に応じ、高度医療機関に対し速やかな転送を行うことないしは新生児科医師等の来院をあおぐこと
(5)客観性の高い診療録の記載のため、時刻等につき正確な記載を行うこと
(6)患者に対し、診療内容について、医学的な見地から十分な説明を行うこと」

本件を踏まえて望まれること

医療事故においては、和解交渉のためにも、医療記録の詳細な分析が必要となります。このためには、協力医に人を得ることが大変重要となりますが、それに加え、弁護士自身も医療記録を医学的知見(医学文献、専門書)に基づき検討した上で協力医と協議し、分析を深めていくことが必要です。今回は、この連携と努力が結実した事案であったと考えています。
また、近時、医療側は和解にあたって、守秘条項(和解の内容や事件について第三者に漏らすことを禁ずること)を入れるよう要求してくることが多いのですが、相手方となった産科病院とその弁護士も、そのような要求を行いませんでした。「闇から闇」となってしまえば、再発防止が図られませんし、日本の医療の停滞を招きます。その意味で、他の医療者・弁護士も、自己の狭い利益だけを考えるのは止め、その姿勢を踏襲してもらいたいと考えます。

今回の和解は、公正かつ正義に基づいたものでありました。
その結果をもたらしたのは、ご両親の、「おかしいものはおかしい」、と長年にわたって粘り強く、あきらめずに真実を追究してきたその姿勢、お気持ちだったと思います。
今の日本で、患者側は「被害者」として正当な扱いを受けていません。自動車事故の被害者が、特殊な疾患(MTBIなど)の場合を除き、十分に満足いくものかどうかは別として、ある程度の被害弁済を受けられることが多いのとは全く異なるものとなっています。
私どもは一つ一つの事件の解決を通じ、このような現状をなんとか変えていきたいと願ってやみません。

  

弁護士法人 ライトハウス法律事務所

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