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解決例

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口蓋扁桃摘出術後の出血による気道閉塞

小学校低学年Aさん X私立総合病院 / 

事案

小学校低学年のAさんは,X私立総合病院耳鼻科で「扁桃肥大,アデノイド増殖症(睡眠時無呼吸症候群)」と診断され,「口蓋扁桃摘出術,アデノイド切除」を受けることになりました。

・手術当日
〇月×日,Y医師により「口蓋扁桃摘出術」が行われました。ただし,ほとんど腫大を認めなかったとして,アデノイド切除は中止されています。

・7日目
手術から1週間後,Aさんには,創部痛・創部出血がなく,退院しました。退院に際し,H医師は,今後創部から出血する可能性があること,その際には救急車で来院するように指示し,1週間後に再診予約を設定しました。

・9日目
退院から2日後,朝起きると,Aさんの口の周りと枕に血の固まりがみられました。このため,すぐにY病院に行き,予約外診療にて甲医師の診察を受けました。甲医師は,痂皮(俗に言うかさぶた)の脱落での少量出血を疑ったものの,口腔内・創部もきれいであったことから,自宅での安静を指示し,入院・絶食はせずに経過観察とした。
Aさんは,昼食後,少し嘔吐し吐血したものの,血はすぐに止まったように見えたため,様子をみることにしました。

同じ日の午後7時ころ,Aさんは,自宅で食事中にむせ込んで嘔吐し,その後吐血が始まりました。3,4回吐血し,レバー状の血も吐いたことから,お母さんは,医師の指示通り,すぐに119番通報し,救急車を要請しました。
 
Aさんは救急搬送され,午後7時30分過ぎにX総合病院に到着し,S医師の診察を受けました。この時,Aさんは,口の中の痛みが強く,口腔内にはコアグラ(凝血塊)状のものがこびりついていて観察が難しい状態でした。
 
午後8時過ぎ,Aさんは,被告病院処置室において,U医師の診察を受けました。U医師は,口腔内のコアグラとたらたらと血液混じりの唾液が出ているのを確認しましたが,Aさんが嫌がって処置が出来ないため,処置室前の廊下で待っていたお母さんを室内に呼びました。U医師は,吸引やうがいを試みましたが,やはりAさんが嫌がるため,処置を諦め,口腔・咽頭の詳細な観察をしないまま,入院と安静(座位まで)の指示をしました。
この時点で,Aさんの口腔内は,唇か,舌か,血の固まりか分からないくらいコアグラがこびりついた状態のままでした。そして,そのまま入院となりました。

・入院後の経過 夜から翌朝
入院後,Aさんは,息苦しさから10~30分おきに起きてぐずる状態だったため,お母さんは看護師に相談しましたが,うがいを勧められただけだった。
午後11時過ぎ,Y医師がAさんの様子を見に来ましたが,Aさんが眠っていたため,口腔内の診察等しないまま,「眠れているので大丈夫だろう。」と判断し,安静,絶食,止血剤での経過観察とした。お母さんが「血の固まりで窒息したりしないのか?」との質問しましたが「もう自分で出せるでしょうし,口の中で固まってしまうということはない。」と答えました。
なお,入院後,Aさんの出血は落ち着いてきたが,唾液に血液が混じる状態が続いていていおり,何度もテッシュに血を出していました。

・入院翌日 午前9時50分ころの回診
U医師は,午前9時50分ころの回診時,Aさんが眠っていたため,口腔内の診察等をしませんでした。この際,お母さんは,出血が少なくなってきているものの,唾液に血液が混じっていること,少し前に血の塊を出したが奥の塊は取れていないことを伝えました。

・午前10時30分ころの心肺停止と蘇生の状況
Aさんは,午前10時30分ころ,血で汚れた服を着替えるために起き上がった際,コアグラが気管に詰まってしまい,徐々にチアノーゼが出現しました。SpO2が低下し,意識も消失し,脈拍が触れない,という緊急事態となりました。
ナースステーションに居合わせた産婦人科医師が駆けつけ,心臓マッサージを開始しました。10時32分,緊急のCALLがなされ,到着したU医師がアンビューバックによるマスク換気(10L)を開始しましたが,心電図モニターで心停止が確認されました。 
 午前10時35分,小児科医師が到着しアンビューバックによるマスク換気を交代しました。小児科医師は,アンビューバックによるマスク換気によっても胸の挙がりが不良なため気管挿管をしようとしたところ,口内の多くのコアグラを認めたため,8Frチューブで吸引したもののコアグラ粘稠で引けないため,吸引チューブの基管で吸引したところ血性コアグラ中等量(ピンポン玉位の大きさ)が引けました。
 その後,午前10時47分に心拍は再開し,静岡県立こども病院へ転送され,脳保護療法(低体温療法,頭部挙上,高浸透圧療法)が行われました。

・Aさんの現状
コアグラによる気道閉塞の結果,低酸素性虚血性脳症となり,四肢麻痺の状態にあり,全介助が必要な状態となっています。

問題点

口蓋扁桃は,解剖学的に,気管の入り口である喉頭口のすぐ上に位置しています。このため,口蓋扁桃摘出術で最も問題となるのは術後出血です。
 術後出血には,24時間以内に起こる早期の出血と1週間から10日間で起こる後出血があります。後出血は,治癒過程で創面にできた白苔が取れ始めることによって起きるとされています。
 口蓋扁桃は,気道の入口である喉頭口のすぐ上に位置するため,後出血があった場合,凝血塊(コアグラ)による気道閉塞(窒息)での死亡に直結します。

成人患者の場合は,止血部位を確認の上,圧迫止血を施すこともできますが,疼痛を伴う処置であることから,小児に協力を求めることは困難であるため,小児や診察に協力が得られない患者の場合は,「出血が疑われた場合には全身麻酔下での創部確認を行い」,止血処置を行うことが必要とされています。

 ところが,本件では,①手術から9日目というまさに後出血が起こりやすい時期であること,②午前中にも出血し外来受診していること,②夕食時の5回の嘔吐の事実から日中に出血が継続していたと見られること,③嘔吐後に再度吐血していること,④救急搬送時には口腔内に自力で排出出来ないほどのコアグラがあり,たらたらと血液混じりの唾液が出ているのが確認されていること,などの事情があるにもかかわらず,「嫌がった」という理由で創部確認されていません。
U医師は,耳鼻咽喉科医師として,咽頭部の出血性疾患における窒息の危険を踏まえ,創部確認及び止血のため,全身麻酔の下,コアグラを除去するとともに,外科的止血処置を行う義務があったことは明らかでした。
 その後,Y医師も午後11時過ぎの回診時に,口腔内の創部の診察すらせず,経過観察とし,翌朝9時50分ころ,再度診察したU医師は,お母さんから,奥にある血の塊は残っていること,唾液に血液が混ざっていることを説明されたにも関わらず,口腔内の診察すら行わず,その場を離れています。
こうして,一度ならず3度までも,杜撰な診察が行われたことが,本件の重大な結果を招いてしまったのです。
もう一つの問題点は,不適切な緊急措置にありました。
Aさんは,午前10時30分ころ,血で汚れた服を着替えるために起き上がった際,血塊(コアグラ)が気管に詰まったものと考えられます。徐々にチアノーゼが出現し,SpO2低下,意識消失という経過からすれば,血塊は,いきなり完全閉塞したのではなく,呼吸により気道奥に徐々に侵入したものと推察されます。
これに対して行われた処置は,たまたま居合わせた産婦人科医師の心臓マッサージと,10時32分に緊急のCALLにより到着したU医師のアンビューバックによるマスク換気でした。
しかし,U医師は,前日からAさんの様子を把握しているのですから,血塊(コアグラ)による気道閉塞が発生したと容易に判断しうる立場にありました。気道閉塞による窒息の場合,窒息の原因すなわち気道を閉塞しているものを取り除かなければ,いくらアンビューバックで送気しても肺に空気は到達しません。したがって,この状況を改善するためには,吸引や腹部突き上げ法等を実施し,まずは閉塞物を除去し,できるだけ早期に挿管を行わなければならなかったのです。ところが,U医師は,一刻を争って行わなければならない異物除去を行わず,アンビューバックによる送気などを行っているばかりであったため,窒息時間はいたずらに遷延し,ついには低酸素脳症による脳障害をもたらしてしまったのです。
「口蓋扁桃摘出術,アデノイド切除」は耳鼻咽喉科でよく行われる手術であり,難しい手術ではありません。しかし,場所(咽頭部)が場所だけに,出血に対するケアは決して疎かにできないのです。残念ながら,X総合病院耳鼻咽喉科医師の方たちには,危機管理意識が完全に欠乏していました。気道閉塞の危険性が指摘されて久しい口蓋扁桃術後出血に対し,安易に経過観察とし,経過観察と言いながらその実口腔内の観察すらせず,事実上放置していたに過ぎなかったのです。
将来の夢や希望を事実上奪われてしまったAさんの被害はあまりに大きいものでした。また,Aさんを24時間介護しているご両親のご苦労も,まさに筆舌に尽くしがたいものです。
ところが,明白な過失があり,その結果として,十分に防止し得たはずの院内での気管閉塞による窒息という事態を引き起こしたにもかかわらず,X総合病院は,裁判を起こすまで,補償を拒否し,責任を認めようとしませんでした。これが,残念な現実です。医療界の方々の中には,医療訴訟を嫌悪し,あからさまな敵意を表現する方がおられますが,これほどの事案ですら,訴訟を起こさなければ,被害者に対し謝罪も補償も行われないのです。

解決・和解

本件では,提訴の段階で,大学附属病院耳鼻咽喉科教授の御協力を得ることができ,的確な私的意見書を作成いただいたこと,また,事案の重さをよく理解された裁判所の訴訟指揮もあって,裁判開始後はスムースに進行し,提訴後1年未満の比較的早期において,和解解決(損害賠償金1億8000万円)となりました。
 和解内容は,ご本人の障害の重さ及び全介護を一生涯要することなどを勘案すれば,決して満足なものとは言い切れませんが,ご両親の介護負担を少しでも軽減する礎となるものだと考えています。

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