最近テレビや新聞で医療事故の被害が度々報道されるようになりました。
 ひとごとと思うかもしれませんが、ヒヤッとしたり、ちょっとした被害を受けた人はあなたの周りにも大勢いるはずです。
 医療事故が多くなっている原因は、医師や看護婦が忙し過ぎる、検査結果ばかりを重要視して患者の話を良く聞かない、内科なら内科の知識しかなく他の専門分野と連携がない、経営のことばかり考えて安全面をおろそかにするなどさまざまです。

その1.医療過誤にあわないためには
その2.医療過誤にあってしまったら

その1.医療過誤にあわないためには
 
まず、医療事故に遭わないためにどうしたらいいか、いくつかポイントをあげてみます。

疑問点があったらとことん聞く
 患者は医師や看護婦に遠慮して「おかしい」と思っても黙ってしまうことが多いものです。
 しかし、医師や看護婦もあなたと同じ人間です。
 あなたは仕事で単純なミスをしたことがありませんか?

「おかしい」と思ったり、「変だ」と思ったら必ず納得いくまで聞いてください。
特に、手術や内視鏡検査を行う場合は、危険性、経験、失敗例について尋ね、医師の答えをメモしておいてください。
丁寧に答えてくれる医師であれば、あまり間違いはないでしょうが、うるさがるようだと要注意です。

 すぐに終わる内視鏡検査でも、失敗すれば死亡にさえ至る事例が多くあります。
 また、誰でも初めてやることは難しいものです。やはりベテランで成功率が高い医師にやってもらうほうが安全度は高いといえます。

 

診断、手術や治療方法について疑問な場合は、別の医療機関に診てもらって複数の医師の意見を聞く
 素人は専門家であれば誰でも同じレベルがあるので、だれに診てもらっても大丈夫だと考えがちです。
 が、実は同じ医師でもその経験年数や研鑚の仕方によって技量が大きく異なるのです。

 あなたが新入社員だったころを思い出してください。なりたての医師は新入社員と同じです。また、ベテラン社員の間でも人によって仕事の出来、不出来は大きく違いませんか?

 特に手術を受ける場合や、予定治療期間を過ぎているのになかなか直らないようなときは、別の医療機関を受診して、手術の必要性があるのかないのか、予定されている方法は適切か、治療方法に間違いないかなどについて聞いてみてください。

 

普段から、医師や病院の評判を確かめておく
 「胃が痛い」くらいの症状で、自分ではあまり大げさに考えず、また医師の方も簡単に胃潰瘍などの診断をしたが、実は胃がんや心筋梗塞の見落としで死亡にまで至ってしまった例も実際にあります。
 ちょっとした症状だと思っても、できるだけ評判の良い医師を選んで受診してください。また、過去に医療過誤を起こした医院は避けたほうが無難でしょう。
 また、病気になってからあわてて探しても間に合わないので、普段から「妊娠したら」「子どもがびょうきになったら」どこで診てもらったらいいか、いろいろな人に聞いておくとよいでしょう。

 

 雑な仕事をしている病院は避ける
 患者本位で考えず経営を優先させている病院は、掃除から看護婦、医者の患者に対する処置まで雑なことが多いものです。仕事が雑であればそれだけ失敗もしやすいのですから、雑だと感じることがあったら避けた方が無難です。

 

 おかしい、恐いと思ったら、ためらわず医者を変える
繰り返し書いたとおり、お医者さんのレベルも千差万別です。医療過誤で死亡する例も多くあります。おかしいと思ったら別の医者に変えて下さい。
なにをされたか、どんな説明をされたか記録をつけておく
日記のような形で、どんな薬をもらったか、どんな治療を受けたか、どんな説明をされたかつけておきましょう。そうすればいつもと違った薬を処方されたときに理由を聞くこともできますし(間違って劇薬を投与されて死亡することさえあります!)、不審な点について質問するときに役に立ちます。また、不幸にして医療過誤にあった場合に重要な証拠ともなります。

その2. 医療事故にあってしまったときには
 
さて、このような注意をしても不幸にして医療過誤の被害者となってしまうことがあります。こんなときはどうしたらよいでしょうか。

今までの治療経過、説明について思いつく限りまとめてみる
 前に書いたように治療や説明を受けるたびに記録しておけばベストですが、そうでなくてもできるだけ早い時点で記憶を探って治療経過や医師の説明について書いておいて下さい。
 後になればなるほど忘れることが多くなってしまいます。

 

不幸にして死亡してしまった場合、警察に届け出て司法解剖を受けるか、または病理解剖をしてくれるよう申し出る
 このような場合、大変な衝撃を受けることになりますので、この決断をするのは容易ではないでしょう。
 しかし、火葬にふした後では正確な死亡原因やどんなミスがあったかまったくわからなくなってしまう場合があります。「どうしてもおかしいと思う」、「家族を奪ったのが医療事故であれば許せない」という強いお気持ちをお持ちになっている場合は勇気をもって警察に届け出る、または病理解剖(静岡県内では主に浜松医科大学が実施していますが、原則的には死亡時に受診していた医療機関を通じて申し込むことになります)を申し出てください。

 

弁護士に依頼して証拠保全をおこなう
 医療過誤があったかどうか判断するにはカルテや検査結果などの資料が必要ですが、医療機関が自主的に患者に渡すことはまずありません。また、医療機関によってはカルテの記載を書き換えてしまうことさえあります。
 したがって、裁判所の命令によってカルテや検査結果などの資料を出させる「証拠保全」ということをしておく必要があります。

 費用は10万円前後が一般的ですが、具体的には弁護士に相談してください。
 静岡県では静岡医療過誤研究会という、医療過誤に携わる弁護士の組織があります。
 静岡医療過誤研究会の連絡先は当事務所(054−205−0577)にお問合せください。

 

医薬品の副作用の場合は、救済基金に申し込む
医薬品の副作用の場合は、申請すれば、医療費や年金が支給される制度があります。
 詳しくは医薬品機構(http://www.kiko.go.jp/)にお問い合わせ下さい。

 医療過誤の被害にあっても「お世話になったから」「世間を騒がすのは嫌だ」などと泣き寝入りをするケースが多かったのが今までの実態です。
 しかし、これでは過誤をした医療機関が反省、改善をしないため、被害者が増える一方です。また、被った損害は賠償される(現実には医療過誤保険に医療機関が加入しているので保険会社が支払うことになります)のが当たり前です。おかしいと思ったらどんどん声を上げるべきです。それが、次の犠牲者をださないための第一歩になるのです。

その3. 問診・触診の重要性と専門外診療の問題点
 

 
【事案】
被害者は当時1歳のEちゃん。
数年前のある日の夕方、Eちゃんは数回嘔吐しました。発熱もあったため、翌日、母親が、近所にあったX医院を受診したところ、担当した医師は、特に聴診等は行わず、症状を聞いただけで「感染性胃腸炎」と診断し、風邪薬など何種類かの薬を処方しました。

 ところが、その翌日になっても、Eちゃんの嘔吐は治まらず、明らかにぐったりとしており、おむつ交換の際に体の痛みを訴えるようになったため、再度、X医院を受診しました。
このときに診察した別の医師は、「おむつ交換の際に痛がる」等の症状を母親が訴えたのに対し、特に聴診・触診をすることもなく前日のカルテに目を通しただけで「吐きすぎて胃が荒れているのでしょう。」と診断し、「よくなる、よくなる」とEちゃんのお腹を触っただけでした。

 しかし、さらにその翌々日になってもEちゃんに快復の様子は一向に見られません。
このため、母親がEちゃんをつれて別の医院を受診してみたところ、今度の医院では直ちに血液検査・体位を変えての痛みの検査等を行い、髄膜炎の疑いがあるとのことで、私立総合病院Yを即日緊急紹介しました。
すぐに駆けつけた総合病院Yで、髄液検査を行った結果「最重症の化膿性髄膜炎」と診断され、Eちゃんは生死の境をさまようことになりました。
  一週間ほどして、Eちゃんの意識は回復しましたが、半身麻痺、言語能力の遅滞等、重い後遺症が残ることになってしまいました。

 

【 問題点 】

1 化膿性髄膜炎は、早期に適切な治療を行うことで、死亡率や後遺症の残る率が低くなる病気です。2度目にX医院を受診した際に、母親が「おむつ交換の際に痛がる(髄膜炎の特徴的症状である、頸部硬直に伴う痛み)」と担当医師に告げていたにも関わらず、担当医師は、これを確認するための診察(体位を変えて動かす、触診する等)すら行っていませんでした。こうして髄膜炎が見逃されたために、髄膜炎は重症化し、Eちゃんに重い後遺障害を残す結果となってしまったのです。

2 また、我が国では、医師は、自分の専門以外の科を自由に標榜(看板や肩書きな
どに掲げること)することができます。このため、私達は、医師の選択をする際に、
知らず知らずのうちに、専門外の医師にかかってしまう可能性もあるわけです。
X医院は、「産婦人科・小児科・内科」を標榜していましたが、実際は小児科や内科は専門外だったようです。このため小児科医であれば当然知っているはずの、髄膜炎に関する知識がなく、症状を見過ごす結果になってしまいました。
本件の問題は、単に髄膜炎を見落としたということにとどまらず、一般市民が医師の選択をすることが難しいことや、医療の情報に関する法制度が整備されていないという問題も含んでいるのです。

 

 

【 解決 】
Eちゃんを診察した医師らは当初、Eちゃんのご両親らが説明を求めた際に、まともに取り合おうとしませんでした。
このため、不信感を強めたご両親が、医療事故110番に相談されたのです。

 本件では、解決までに4年を要したものの、X医院がEちゃんならびにご両親に対して、1,600万円を支払うことで和解が成立しました。

(法律マニュアルは「弁護士も聞きたい法律相談」より引用・一部内容を訂正して掲載しております。)

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