医療過誤の解決事例

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医療過誤の解決事例

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20歳代・女性日本で唯一、羊水塞栓症で原告側が勝訴した事例(医療側上告・上告受理棄却により原告側勝訴確定)

正期産妊婦が常位胎盤早期剥離後,多量出血後死亡し,司法解剖によって肺血管内に扁平上皮細胞が確認されたため羊水塞栓症と死後診断されていた症例において,医療機関の過失を認め,さらに死亡と結果との因果関係も肯定した事例

【事案】

妊娠40週3日であった患者は,陣痛を訴え,被告病院に入院した。入院直後にエコーにより常位胎盤早期剥離による胎児死亡が確認され,緊急帝王切開手術が行われることになり,午前9時ころから開始された。術中,午前9時30分頃より血圧が低下してショック状態が続いた。手術終了時(午前11時ころ)に累計出血量が3438mlであったが,内2000mlのパッド等への出血は見逃され(訴訟中の医師尋問で判明),医師らは1500mlの出血だと認識し,輸血はRCC(濃厚赤血球)を4単位(560ml)なされただけであった。この状態のまま,輸血もされずにCT室に移送され,頭部・腹部CTが行われ,頭部CTには異常が無く,子宮が拡大していた腹部CT所見は見逃された。その後,病棟に戻ったが,ショック状態が続いていたにもかかわらず輸血の追加はRCC2単位280ml,FFP(新鮮凍結血漿)4単位480mlが行われただけで,同日午後1時40分,患者の死亡が確認された。司法解剖が行われ,著明な貧血所見とともに肺血管内にごく少量の扁平上皮細胞が確認されたため,羊水塞栓症と死後確定診断された。

【主な争点】

1 妊婦の死因はなにか(原告は主として出血性ショックであるとし,被告はアナフィラキシータイプの重篤な羊水塞栓症であったと主張)
2 常位胎盤早期剥離発症時における産科DIC防止に関する過失の有無
3 産科DIC及びショックへの治療に関する過失の有無並びに出血量チェック及び輸血に関する過失の有無
4 (1も踏まえ)相当因果関係の有無

【判決】

上告審が,上告人(被告・医療側)の上告及び上告受理をいずれも棄却し,被上告人(原告)勝訴の控訴審判決が確定した。一審は,被告ら(病院及び関与した医師ら)の過失は認めるも因果関係を認めず原告敗訴であったが,控訴審では約1年の丁寧な審理の後,より詳細な事実認定で改めて被控訴人らの過失を認めた上,因果関係も認め,控訴人が逆転勝訴した。本件の意義は,司法解剖後肺血管内に少量の扁平上皮細胞が確認された医学上の羊水診断確定例について,過失と結果(妊婦死亡)との因果関係を肯定した高裁判決が最高裁でも維持されて確定した点にある。羊水塞栓症において裁判史上初めての例であろう。なお,判決文言に「仮に羊水塞栓症が発症していたとしても」と「仮に」という文言があることを捉えて確定羊水塞栓症における因果関係の判断をしたものではない,とする議論が寄せられたがこれは誤りである。羊水塞栓症の確定診断上の定義については,私自身,日本の定義は不十分であると疑問を持ち,これが判決にも反映されてこのような表記となったものではあるが,日本における医学上の定義を本件症例が満たしていることに争いはない。従前,医学上「羊水塞栓症」と確定診断されることが,事実上の免罪符の役割を果たしていたことを打ち破ったところに本判決の最大の意義があることは言うまでもないところである。

【コメント】

治療に過失がある事案であっても,剖検によって羊水塞栓症という確定診断がなされた場合,因果関係の壁を破れず,原告側は敗訴してきたのが従前の裁判例であり,本件1審も同様であった。しかし,控訴審では,羊水塞栓症の死亡率が従来いわれてきた80%から相当程度解離(むしろ救命率が80%程度)していることが認められ,因果関係が肯定された。この画期的な判決が医療側上告により,上告・上告受理棄却という形とはいえ最高裁でも維持されたことは,今後の医療裁判に対し極めて大きな意味を持つところであろう。
なお,この最高裁の判断の後,改めて被告病院に謝罪を申し入れたが,拒否された。このような医療側の態度は司法判断への尊重を欠くものであり,極めて残念なものというしかない。

  

弁護士法人 ライトハウス法律事務所

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