医療過誤の解決事例

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医療過誤の解決事例

最近の解決事例の中から、依頼者のご承諾を得て紹介しております。

30代の経産婦産科診療所静岡県立総合病院 静岡県立こども病院

新生児に高濃度酸素投与が行われ、未熟児網膜症もしくはこれに類似した疾患が発症したケースにおける眼底検査の懈怠

【事案】

1.未成熟での誕生と転院

平成15年、D君は、静岡県立総合病院産婦人科において、帝王切開によって、早産(35週目)で出生しました。

その際、RDS(呼吸窮迫症候群)の疑いがあるため、出生後すぐに肺サーファクタント(肺に未熟性がある場合に投与される)を投与され、そのまま、県立こども病院へ搬送されました。その後こども病院にて、保育器での治療、観察、連続6日間の高濃度の酸素吸入が行われました。

なお、出生体重は、体重2,825gとされていますが、出生日に計測されているだけで、その後3日間は計測されず、4日目に計測された数値は2,352gと急減し、その後も2,300g台で推移しているため、その数値の正確性には疑問があります。

同年3月下旬、D君は県立こども病院から県立総合病院へ戻り、4月初旬に退院しました。


2.その後の様子

同年7月、県立総合病院での3~4ヶ月検診の際、D君の母は、母子手帳の「目つきや目の動きがおかしいのではないかと気になりますか。」との質問欄に「はい」と印をつけ、診察時にも左目に斜視の疑いがあるか質問しましたが、特に心配はないと言われ、検査も行われませんでした。


3.網膜症の発見

同年10月下旬、D君は呼吸器官系の診察・治療のため県立総合病院に入院しました。その際、視線が微妙に右目と違う動きをすることがあるため、左目が斜視ではないかと思われたことから、D君の母は、この入院中に目に関する検査をするよう県立総合病院に申し出ました。


4.転医と手術

その後、D君は国立成育医療センターに転医し、光凝固手術を受けました。


5.示談の経緯と訴訟

D君の両親は、静岡県と示談交渉を行いましたが、静岡県が責任を全く認めなかったため、平成17年9月26日、やむを得ず提訴に至りました。

静岡県は、自らの医師が訴訟前に診断した「未熟児網膜症」との診断結果を訴訟においては覆し、未熟児網膜症ではなくこれに類似した疾患であるとして、責任を争いました。


【問題点】

1. 本件では、出産時の状況が、妊娠35週目での出産という早産であったことや、呼吸に異常があったことから肺に未熟性があると考えられたこと、出生直後から県立こども病院で高濃度酸素の吸入が連続7日間行われたにもかかわらず、その後、早産、帝王切開、未熟児、酸素投与の場合に危険性が高いとされている未熟児網膜症に対する注意が払われず、眼底検査が行われませんでした。

ちなみに、未熟児網膜症であっても、静岡県が主張した類似疾患であっても、眼底の異常所見は同一であり、仮に早期に眼底検査によって発見されていれば、光凝固治療等によって進行を防止することが可能な場合が多いとされています。


2. また、県立こども病院における酸素投与においては、未熟児網膜症防止のために遵守すべきとされている動脈血酸素分圧の数値について注意が払われず、一般的に基準値とされている数値を遙かに上回る値が継続して記録されているにもかかわらず、これに基づく酸素投与量等のコントロールが全くされていませんでした。


3. 今回のケースでは、県立総合病院にて出産後、直ちに県立こども病院へ搬送され、高濃度酸素の連続投与等の治療がなされ、2週間後再度県立総合病院へ転院しましたが、その際、両病院間での治療情報が共有されず、酸素投与等の治療記録が送付されていなかったため、いずれの病院においても眼底検査が行われませんでした。


4. 3~4ヶ月検診の際、母親が、D君の目の動きが気になる旨母子手帳に記入し、斜視ではないかと医師に質問しましたが、必要な検査は行われませんでした。

【解決】

平成20年、裁判所の勧告に双方が歩み寄り、訴訟上の和解が成立しました。
静岡県がD君に1,500万円の和解金を支払う内容で和解が成立しました。

本件を踏まえて望まれること

静岡県立総合病院及び静岡県立こども病院に対する、地域の基幹病院としての住民の期待は大きく、また、実際にその役割を担っています。

ただ、残念ながら、産科・新生児小児科が両病院で分断されており、産科の急性期症例は本件のように両病院で分散して対応せざるを得ません。そして、このことが本件の残念な結果を生じさせた一因と考えられます。

したがって、静岡県においては、産科・新生児小児科を単一の病院において一元的に取り扱えるよう施設整備することが急務と考えられます。

また、その体制が構築されるまでは、両病院の連携を緊密にされ、医療記録の写しが全件送付されるなどのシステム改革を行われるよう望むものであします。

  

弁護士法人 ライトハウス法律事務所

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