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解決例

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イレウス所見の見落とし(X線写真におけるニボー像)

10代・Aさん / 消化器科

事案

[Aさんの既往]
10代後半のAさんは,出産時の仮死状態が原因で,脳性麻痺・精神遅滞の障害を負っていました。普段は車椅子で発語がない状態でした。食事は,ミキサーにかけたもの又は細かく刻んだものにとろみをつけて,両親が,一さじずつ食べさせていました。

[Y市立総合病院への入院と退院]
Aさんは,朝方は平熱,夕方は高熱という弛張熱があり,その後,肺炎及び胸水貯留を指摘され,11月7日,X市立総合病院に右膿胸及び右肺炎の診断で入院しましたが,病状が改善したため,同月23日に退院しました。

[イレウスの発症]
その約1ヶ月後の12月25日,Aさんは,体温が低く,全身に多量の冷や汗をかき,顔面が蒼白して震えが止まらず,食事及び水分を全く受けつけませんでした。
お母さんは,すぐにX市立総合病院へ連れて行きましたが,病院到着時,Aさんは,体温35.4℃,脈拍数105回/分,血圧110/75mmHg,SpO295%で,全身に炎症性の反応が見られる,SIRS(全身性炎症反応症候群)という状態でした。
しかし,日曜日で救急科は混雑しており,お母さんが「退院したばかりで体力もないので,すぐに診てほしい。」と受付や看護師に何回もお願いしましたが,発熱のある患者が優先とのことで,Aさんは,なかなか診察してもらえませんでした。後から受付した患者が次々と診察室に呼ばれ,診察を終えて帰って行く中,Aさんは,5時間以上も待たされ,15時ころ診察室に呼ばれた時には,患者は1名しか残っていませんでした(つまり,最後から2番目に後回しにされたのでした)。

胸部単純X線検査(立位)及び血液検査を受け,X線には,小腸にはっきりとしたニボー像(鏡面像)※ が写っていました。それだけでなく,胃拡張及び小腸拡張並びに小腸ループが認められました。また,血液検査の結果は,WBC(白血球数)9400(基準値4000-9000),CRP(C反応性蛋白)2.41(基準値<0.3)と炎症反応を示し,TP(総蛋白)9.4(基準値6.7-8.3)と脱水症であることも確認されました。
   ところが,医師は,胸部単純X線写真について,異常を見落としてしまいました。それだけでなく,幼少時にイレウスの既往があったことから,お母さんが「お腹の調子は悪くないですか?」と尋ねたため,医師は,聴診器をAさんの腹部に軽くあてたのですが,痛かったのか,Aさんが医師の手を払いのけたため,医師は,それ以上,聴診をしませんでした。お母さんが,もっと丁寧に診てほしいという趣旨で「それだけですか?」と聞きましたが,医師は,「Aさんが嫌がっているので,もう必要ないでしょう。」と言って,腹部を丁寧に診察してくれず,右膿胸の再燃と判断し,抗生剤を処方しただけで帰宅させようとしました。
お母さんは,原因がはっきりしないまま帰宅することに不安を感じ,入院させるよう医師にお願いしましたが,医師は,呼吸器科の再診予約を翌日に前倒ししただけでした。
後にわかったことですが,この診療を担当したのは研修医でしたが,診察について,上級医にコンサルタントを実施していませんでした。

[翌日以降の経過]
25日の夜は,横になることもできず,一晩中,苦しそうに大声でもがき叫んでおり,排便も停止していました。
翌日,Aさんは,午前9時にX市立総合病院呼吸器科を受診し,胸部単純X線検査(座位)を受けました。小腸にはやはりニボー像(鏡面像) が写っており,前日に比べ胃拡張及び小腸拡張が進行していました。また,脈拍数は140回/分の頻脈でした。
     これに対し,医師は,胸部単純X線写真の異常を見落とした上,右下肺野に軽度浸潤影が出現していると読影し,前日の血液検査の結果も併せて,右膿胸又は右肺炎の再燃の可能性があると判断しました。

その後,心電図検査を受けた際,お母さんは,Aさんの腹部がコチコチに硬くなっていることに気付き,技師は,腹部の異常を直ちに医師へ報告しました。医師は,Aさんの腹部を診察して,ようやく腹部緊満及び腸音亢進を確認し,25日及び当日の胸部単純X線写真を見直して,やっとイレウスが疑われるとの判断に至りました。

その後,腹部単純CTを経て,胃管の挿入が試みられましたがうまくいかず,断念して病室に戻ったときには,もう午後2時になっていました。直後,容体は急変し,顔面蒼白で,血圧が測定できず,下肢にチアノーゼがあり,SpO2も測定できないという重篤な状態となりました。
いったん,容態は安定し,午後4時30分,ようやく経鼻内視鏡を使用して,イレウス管を十二指腸下行脚まで挿入し,減圧が開始されました。

病室へ戻ってからも,容体は安定せず,23時20分過ぎ,心肺停止しており,その後亡くなりました。




※1 単純X線写真において,イレウス患者が立位又は左側臥位をとると,腸管内容物のうち液性成分は下に,気体成分は上に移動し,水平に液面像を形成するが,これをニボー像(鏡面像)という。

問題点

・イレウスとは
イレウスとは,腸管内容が種々の原因で通過障害を起こす病態であり,症例によっては重篤な全身状態を呈するため,早期に適切な処置を行う必要があります。
イレウスは,器質的な病変により腸管が物理的に閉塞する「機械的イレウス」と腸管そのものに器質的な疾患を持たず腸管運動の障害から起こる「機能的イレウス」に大別されます。さらに,機械的イレウスは,腸管の血行障害を伴わない「閉塞性(単純性)イレウス」と,腸管の血行障害を伴う「絞扼性(複雑性)イレウス」に分類されますが,頻度的には開腹手術後の癒着による閉塞性イレウスが圧倒的に多いとされています。また,機能的イレウスは,「麻痺性イレウス」と「痙攣性イレウス」に分類されますが,実際の臨床においては,麻痺性イレウスは開腹手術後や急性腹膜炎に伴うものがほとんどを占め,痙攣性イレウスに遭遇することは少ないとされています。
 
イレウスになると,閉塞された腸管では,腸管内細菌が異常増殖し,それと共にエンドトキシン(内毒素)が産生され,腸壁を越えて血管中や腹腔内へ移行し(これをバクテリカル トランスケーションといいます),敗血症,エンドトキシン血症を引き起こし,多臓器不全症候群(MOF),播種性血管内凝固症候群(DIC)などの重篤な状態に陥って死に至ることがあります。

・ニボー 
腹部単純X線検査は,イレウスの早期診断において極めて重要です。
イレウスでは,飲み込んだ空気や異常発酵のため生じたガスが腸管内に貯留するが,貯留したガスによる腸管の拡張像は,腹部単純X線写真でよく読影されるポイントです。
また,拡張した腸管内で液体とガスが分離して,ニボー像(鏡面像)というものを作ります。ちょうど鏡のように,真っ直ぐなラインで腸管内容物のうち液性成分は下に,気体成分は上に移動し,水平に液面像を形成するのです。

・血液検査
血液生化学検査において,閉塞性イレウスでは,白血球数増加,CRP上昇を示すこともある。また,絞扼性イレウスでは,多くの例で白血球数増加,CRP上昇,CK上昇や代謝性アシドーシスを呈する。
  
・ニボー像を見落とし,イレウスと診断しなかった過失
25日の胸部単純X線写真には,小腸にニボー像(鏡面像)がはっきり写っていただけでなく,胃拡張及び小腸拡張並びに小腸ループが認められていました。見逃しようのないイレウスの特徴的所見でした。しかも,血液検査の結果は,WBC(白血球数)9.4(基準値4-9),CRP(C反応性蛋白)2.41(基準値<0.3)と炎症反応を示し,TP(総蛋白)9.4(基準値6.7-8.3)と脱水症であることも確認されていたのです。脱水症であること,その他の症状(体温が低く,全身に多量の冷や汗をかき,顔面が蒼白して震えが止まらず,食事及び水分を全く受けつけない)は,医師が誤診した右膿胸の再燃では説明がつくものではありませんでした。
また,SIRS(全身性炎症反応症候群)の状態であることも見落とされていたのです。
このような見落としの理由の一つは,やはり臨床経験の少ない研修医の実力不足を挙げざるを得ません。
ただ,私たちは,研修医が救急医療の一翼を携わること自体を否定するものではありません。ただし,やはりバックアップは必要です。この日も上級医は控えていたのですが,なぜかコンサルトはなされていませんでした。病院として,下級医が,上級医に相談しやすい体制作りを行うことも不可欠でしょう。

・翌日もニボー像を見落とした過失
翌日の胸部単純X線写真にも,小腸にニボー像(鏡面像) が写っており,しかも前日に比べ胃拡張及び小腸拡張が進行していました。容易に読影可能なイレウスの特徴的所見でしたが,これも見逃されました。
X市立総合病院の医師は,誰もが救急外来を担当しています。イレウスは,よくみられる緊急疾患ですから,どの医師も最低限の読影能力を備えていることが期待されますが,残念ながらそのような状況にはなかったようです。

・対応が遅れた過失
腹部硬直に母と検査技師が気付き,ようやくイレウスと診断された後も,緊急事態との認識が薄く,根本的治療法の一つであるイレウス管を挿入されたのも遅すぎました。本件では,全体的に,治療が後手後手に回っていましたし,「後回し」感をご家族が感じたのも無理からぬところでした。

解決・和解

本件では,示談段階では一切の補償は提案されず,やむを得ず訴訟を提起しました。
当初,X市立総合病院は,ニボー像が異常所見であることすら争っていました。外にも,Aさんがイレウスでよくみられる腹痛を訴えていなかったことから見落としもやむを得なかったと主張し,死亡原因についても誤嚥性肺炎あるいは窒息ではないか,と争っていました。
しかし,ニボー像については本来,争いようのない客観的所見ですし,Aさんは脳性麻痺のため,意思疎通ができないことは,直前の入院カルテにもはっきり記載されていたことでした。また,イレウスで全身状態が悪化すれば,当然誤嚥性肺炎も起こします。本件では,解剖が行われていますが,窒息を根拠付ける所見もありませんでした。
この訴訟においても,臨床経験豊富な医師の協力を得ることができ,内容の充実した意見書を提出しました。相手方も意見書を提出してきましたが,結局,その段階で和解に応じる意向が示され,和解金が支払われることで決着しました。また,和解条項には
「障害を持つ患者に対する医療について,障害に十分配慮しつつ行うこと」
「救急医療に携わる研修医に対して,急性腹症における画像読影等の指導・教育を十分に行うこと」
という条項が入れられました。ご遺族の強い要望に,病院側も応えたものであり,今後の医療の改善に繋がることが切に望まれます。

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